【ボツリヌス症】缶詰やビン詰なとの保存食品でも安心できない
「ボツリヌス症」という病名を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか? よく話題になるのは、乳児がハチミツを食べ発症するタイプと、大人が食中毒として発症するタイプです。
原因となるボツリヌス菌は土や水の中など広く存在していて、ハチミツの中にも5~10%の確率で混入しています。
ボツリヌス菌はわれわれ大人が摂取しても健康には影響がないのですが、1歳未満の乳児が摂取した場合、腸管内で増殖し、そこで産生された毒素が吸収されてさまざまな症状を起こすケースがあります。症状は、便秘状態が数日間続き、全身の筋力が低下する脱力状態になり、哺乳力の低下、泣き声が小さくなるなど、筋肉が弛緩することによる麻痺症状が特徴とされています。
一方、1歳以上では腸内の正常な大腸菌が増えてボツリヌス菌が繁殖できないため、発症しないといわれています。では、食中毒はどのように起こるのでしょうか? これはボツリヌス菌が腸管内で増えるわけではなく、食品などの中でボツリヌス菌が大量に産生した毒素を摂取することによって発症します。
毒素に汚染された食品を摂取後8~36時間で、吐き気、嘔吐、視力障害、言語障害、嚥下困難(物をのみ込みづらくなる)など神経症状が表れるのが特徴で、重症例では呼吸麻痺により死亡に至る場合もあります。
ボツリヌス菌は酸素の少ない場所で増える性質(偏性嫌気性)があり、缶詰やビン詰などの保存食品(特に自家製のもの)が原因で食中毒が発生しています。ほとんどの保存食品は120度で4分間以上の加熱が行われているので常温保存が可能ですが、まぎらわしい形態の食品も流通しています。
「食品を気密性のある容器に入れ、密封した後、加圧加熱殺菌」という表示のない食品や、「要冷蔵」「10度以下で保存してください」などの表示がある場合は、必ず冷蔵保存して期限内に消費してください。
また、装詰食品の中でボツリヌス菌が増殖すると、容器が膨張し、開封すると異臭がする場合があります。真空パックや缶詰が膨張していたり、食品に異臭(酪酸臭)があるときには、絶対に食べないでください。
ボツリヌス症の治療では、毒素を中和することを目的にボツリヌスウマ抗毒素を用いた抗血清療法が行われます。抗毒素導入以前のボツリヌス症の致命率は30%だったのですが、普及後は4%以下にまで低下したといわれています。
次回はボツリヌス毒素を使った医薬品について紹介します。