北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「ザ・プロフェッサー」ロバート・ベイリー著、吉野弘人訳
登場人物は類型的なのにめっぽう読ませる小説というものが時にある。本書がそれだ。 主人公は、大学で法律を教えていたトム68歳。妻をがんで亡くし、卑劣な教え子の謀略で大学を追われ、さらに膀胱がん…
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「戦場のアリス」ケイト・クイン著 加藤洋子訳
第1次大戦中、ドイツ軍が占領している北部フランスで、ひそかに活動を続けていた女性たちがいた。それがアリス率いるスパイ網だった――というのは歴史的事実だが、あまり知られていないと著者あとがきにある。 …
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「わたし、定時で帰ります。ハイパー」朱野帰子著
前作「わたし、定時で帰ります。」が新鮮であったのは、「お仕事小説」の体裁を取りながらも類似の作品とは明らかに一線を画していたからだ。 それは書名に表れている。なによりも先に「定時で帰る」こと…
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「エスケープ・トレイン」熊谷達也著
自転車ロードレースが盛んになってきたとはいっても、まだまだ外国に比べて我が国の競技人口は少ない。日本ではいまだにマイナースポーツである。だから選手は大変だ。 ロードレースの本場であるヨーロッ…
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「うちのレシピ」瀧羽麻子著
街中の小さなレストランの一人娘・真衣と、そこで働くシェフの啓太が結婚することになり、冒頭は両家の顔合わせに、啓太の母・美奈子が現れないくだり。仕事が忙しかったのだが、全然悪びれない美奈子とそれをかば…
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「僕の母がルーズソックスを」朝倉宏景著
朝起きたら母親が17歳の女子高生になっていた――というところから始まる物語だ。前日までは普通の母親だったのに、「あんたさ、マジでどこの誰?」と睨まれたら、16歳の潤平は驚くしかない。どうしたんだ芽衣…
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「秘湯めぐりと秘境駅」牛山隆信著
秘境駅とは、列車以外でたどりつくのが困難な駅のこと。この著者はそういう駅を訪れる旅の記録を書き続けている人だが、すごいのは廃止された駅跡までターゲットにしていることだ。完全に道が途絶えた山中の秘境駅…
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「オーディションから逃げられない」桂望実著
いるよなあこういうやつって、と思わず納得してしまうのが太一だ。この小説のヒロイン渡辺展子と結婚することになる男だが、とにかく軽い男である。 なんとかなるさ、というのが口癖の男だが、自分の両親…
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「駒音高く」佐川光晴著
将棋小説である。将棋会館の清掃員を描く短編もあれば、引退間際の棋士を描く作品もある。将棋にまつわる人々の話を7編収録した作品集だ。 将棋観戦記者を描く第6話「敗着さん」をはじめとして興味深い…
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「永田町小町バトル」西條奈加著
西條奈加は、中山義秀文学賞を受賞した「涅槃の雪」や、吉川英治文学新人賞を受賞した「まるまるの毬」など、時代小説の作家として知られているが、本書は現代小説なので要注意。もっとも現代小説を書くのはこれが…
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「月まで三キロ」伊与原新著
月は1年間に3.8センチずつ地球から離れているんだそうだ。3.8センチなんてたいしたものではないと思うところだが、積もり積もるとばかにはできない。いま月までの距離は38万キロだが、40億年より前の距…
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「帰去来」大沢在昌著
大沢在昌が久々にSFの世界に帰ってきた。「新宿鮫」シリーズという大変刺激的な警察小説で知られるこの作家は、近未来の東京を舞台にした「B・D・T〔掟の街〕」や、美女の脳を移植された女性刑事を主人公にし…
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「償いの雪が降る」アレン・エスケンス著、務台夏子訳
たのしみな新人作家が登場した。読み始めたらやめられない面白さだ。 主人公は大学生のジョー・タルバート。年長者の伝記を書く、というのが授業の課題だが、身近なところに知り合いがいないので介護施設…
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「雑誌に育てられた少年」亀和田武著
コラムニスト、亀和田武のバラエティーブックである。 亀和田武の雑文集は「1963年のルイジアナ・ママ」(1983年)、「ホンコンフラワーの博物誌」(87年)に続いて3冊目だが、今回は高校2年…
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「海とジイ」藤岡陽子著
瀬戸内の島を舞台にした連作である。漁師の清ジイ、島の診療所にやってきた月島先生、石の博物館をつくった澪二の祖父――この3人の、どうやって死を迎えるか、その凛とした覚悟の日々が描かれていく。 …
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「会社を綴る人」朱野帰子著
32歳の紙屋は派遣社員を10年続け、ようやく小さな製粉会社の正社員職を得た。しかし、注意散漫で自信がなく、何をやってもうまくいかずに、同僚の邪魔になるばかり。もう何もしないでくれ、と言われるほどのダ…
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「ウェディングプランナー」五十嵐貴久著
ウエディングプランナーの仕事とは、「結婚するカップル、主に新婦のリクエストを聞き、結婚式や披露宴のプランを立案し、それに基づいて関係する各部署の調整を担当する」ことだと本書にある。 結婚式は…
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「トム・ハザードの止まらない時間」マット・ヘイグ著 大谷真弓訳
SF叢書の一冊だが、SFを読み慣れていない人も大丈夫なので、安心して読まれたい。主人公は、遅老症にかかったトム。この遅老症というのは、文字通り、年老いる速度が遅いこと。どのくらい遅いかというと、最大…
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「ベルリンは晴れているか」深緑野分著
第2次大戦末期のヨーロッパを舞台にした「戦場のコックたち」は実に鮮烈な小説だった。アメリカのコック兵が戦場で出合う「日常の謎」を描くミステリーだったが、「日常の謎」とはいっても、野戦病院の場面にむせ…
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「ドライブインまほろば」遠田潤子著
苦しくなる。いつもそうだ。それなのに、読んでいると苦しくなるのに、遠田潤子の新作が出ると、いつもすぐに読むのはどうしてなのか。 今回の舞台は、峠越えの旧道沿いで細々と営業を続ける「ドライブイ…