「秘湯めぐりと秘境駅」牛山隆信著
秘境駅とは、列車以外でたどりつくのが困難な駅のこと。この著者はそういう駅を訪れる旅の記録を書き続けている人だが、すごいのは廃止された駅跡までターゲットにしていることだ。完全に道が途絶えた山中の秘境駅跡にたどりつくのは容易ではない。たとえば、宗谷本線の神路という駅は、大正11年に出来た駅だが、昭和60年に廃止。もともと陸の孤島につくられた駅だが、事情があって人が住まなくなったので廃止され、ホーム跡も駅舎もすべて撤去。その跡地に向かうのだが、これがスリリングである。
秘湯をめぐる旅ならまだわかる。本書でも渡島半島の山奥にある野湯「金花湯」を訪れる冒険行が出てくるが、片道21キロの山中を徒歩で7時間かけていくというのは、もちろんそれも大変だろうけど、目的地に着けば温泉に入ることが出来る。そういうご褒美が待っている。
ところが、秘境駅の跡地に行っても草木が繁茂する更地になっているだけで何もないのだ。それなのに秘境駅跡マニアの著者は果敢に攻めていくのである。人跡未踏の山中から神路駅跡に接近するのは、遭難やヒグマとの遭遇を考えると大変危険なので、川の対岸からまず中州に渡り、そこから入水して駅跡地に行くという方法を最終的には選択する。ところが川の流れが意外に速く、流されそうになるのだ。
マニアというのはホントにすごいと感服の一冊だ。
(実業之日本社 780円+税)