「ベルリンは晴れているか」深緑野分著
第2次大戦末期のヨーロッパを舞台にした「戦場のコックたち」は実に鮮烈な小説だった。アメリカのコック兵が戦場で出合う「日常の謎」を描くミステリーだったが、「日常の謎」とはいっても、野戦病院の場面にむせかえるような血のにおいが充満していたように、冷たくリアルな戦場シーンが印象的な小説であった。
今回もたっぷりと読ませて飽きさせない。今度の舞台は、戦争が終結したばかりのベルリン。焦土と化した街は、米英仏ソの連合軍の統治下におかれているが、早くも米英仏とソ連のにらみ合いは始まっている。
街には死体が転がり、道行く人は手首に白いものを巻いている。降参した印を目につくところに置いてないと何をされるかわからないのだ。
そういう街を歩いていくのは、ドイツ人の少女アウグステ。恩人の死を伝えるために甥を捜しに旅に出たのだ。同行するのは陽気な泥棒カフカ。この2人がさまざまな人に出会いながら、焦土と化した街を歩いていく。つまりこれは、ロードノベルだ。
恩人の死を伝えるためだけに苦難の旅を続けるのは、いくらなんでもヘンだという気もするけれど(きっと何かが隠されているのだろうが、それが何なのかは分からないのだ)、その真相が明かされるラストが圧巻。
人物造形も描写も相変わらず素晴らしく、さらに途中にヒロインの過去が挿入されるが、この構成もよく、一気読みの傑作だ。
(筑摩書房 1900円+税)