著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ザ・プロフェッサー」ロバート・ベイリー著、吉野弘人訳

公開日: 更新日:

 登場人物は類型的なのにめっぽう読ませる小説というものが時にある。本書がそれだ。

 主人公は、大学で法律を教えていたトム68歳。妻をがんで亡くし、卑劣な教え子の謀略で大学を追われ、さらに膀胱がんを宣告されるところから本書が始まる。そこに昔の恋人が現れるのだ。娘夫婦と孫娘をトラックとの衝突事故で亡くした彼女は、運送会社を相手取って訴訟を起こしたいと相談してくる。しかしトムは40年も法廷を離れていて、さらに病気を抱えているので、それどころではない。とても彼女の期待にこたえることはできないと、若い弁護士を紹介することになる。それが本書のもう一人の主人公リックだ。

 実はこのリック、トムの教え子の一人なのだが、あるいきさつから絶縁状態が続いていた。過去の確執があるので最初は依頼を断るが、家賃の支払いにも事欠くありさまなので、そうも言っていられない。で、リックが訴訟を担当することになって法廷劇が始まっていく。もちろん、途中からトムも首を突っ込み、力をあわせる展開になっていく。

 厳しく採点すれば、敵方の運送会社が賢くないことや、物語そのものに奥行きがないので、通俗リーガル小説の域を出ていないと言わざるを得ない。しかしそういう欠点は承知の上で言えば、これだけ読ませてくれればいいじゃないかという気もするのである。肩の凝らない読み物として読まれたい。 (小学館 970円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…