「ザ・プロフェッサー」ロバート・ベイリー著、吉野弘人訳
登場人物は類型的なのにめっぽう読ませる小説というものが時にある。本書がそれだ。
主人公は、大学で法律を教えていたトム68歳。妻をがんで亡くし、卑劣な教え子の謀略で大学を追われ、さらに膀胱がんを宣告されるところから本書が始まる。そこに昔の恋人が現れるのだ。娘夫婦と孫娘をトラックとの衝突事故で亡くした彼女は、運送会社を相手取って訴訟を起こしたいと相談してくる。しかしトムは40年も法廷を離れていて、さらに病気を抱えているので、それどころではない。とても彼女の期待にこたえることはできないと、若い弁護士を紹介することになる。それが本書のもう一人の主人公リックだ。
実はこのリック、トムの教え子の一人なのだが、あるいきさつから絶縁状態が続いていた。過去の確執があるので最初は依頼を断るが、家賃の支払いにも事欠くありさまなので、そうも言っていられない。で、リックが訴訟を担当することになって法廷劇が始まっていく。もちろん、途中からトムも首を突っ込み、力をあわせる展開になっていく。
厳しく採点すれば、敵方の運送会社が賢くないことや、物語そのものに奥行きがないので、通俗リーガル小説の域を出ていないと言わざるを得ない。しかしそういう欠点は承知の上で言えば、これだけ読ませてくれればいいじゃないかという気もするのである。肩の凝らない読み物として読まれたい。 (小学館 970円+税)