「トム・ハザードの止まらない時間」マット・ヘイグ著 大谷真弓訳
SF叢書の一冊だが、SFを読み慣れていない人も大丈夫なので、安心して読まれたい。主人公は、遅老症にかかったトム。この遅老症というのは、文字通り、年老いる速度が遅いこと。どのくらい遅いかというと、最大で15倍。つまり通常の人間の寿命が70歳とすると、その場合は1000歳を超える。
不死ではない。銃で撃たれたら死ぬ。ただ、そういうことがない限り生き続ける。物語の柱は、トムが娘を捜していること。はるか昔に一度だけ恋をして(本来は禁止)娘が生まれたのだが、行方不明になってしまったのである。もうひとつは、遅老症はトムだけでなく、彼らの組織があり、その一員になっていること。組織の義務を果たせば十分な庇護を与え、娘の捜索にも力を貸すということで、トムは彼らの組織に入っている。
その義務とは、新しく遅老症の人間が見つかると組織への加入をすすめること。もしも遅老症が発覚すると、通常の人間たちはその秘密を解明するために切り刻むに違いないと彼らは考える。だから、あくまでも秘密にしていなければならない。自由に振る舞われては困るのである。組織への加入を断る者は殺さざるを得ないほど、その掟は厳しい。
かくて娘を捜すトムの長い旅が始まっていく。果たしてトムは娘とめぐり合うことができるのか。組織の方針に、トムはいつまで賛同できるのか。物語はスリリングに進んでいくのである。
(早川書房 2100円+税)