著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「永田町小町バトル」西條奈加著

公開日: 更新日:

 西條奈加は、中山義秀文学賞を受賞した「涅槃の雪」や、吉川英治文学新人賞を受賞した「まるまるの毬」など、時代小説の作家として知られているが、本書は現代小説なので要注意。もっとも現代小説を書くのはこれが初めてではない。

 現役キャバクラ嬢にしてシングルマザーのヒロイン、芹沢小町がなんと国会議員になってしまうという話である。区議でも都議でもなく、いきなり衆議院議員になってしまうのである。なるまでの話ではなく、これはなってからの話。彼女がなぜ衆議院議員になったかというと、ある目的があったからだ。それは、シングルマザーの生活がいかに大変かということだ。福祉行政がいかに遅れているか、著者は数字をどんどん並べて読者を物語世界に強引に引きずり込んでいく。

 その寄り道、いや背景説明の量がケタ外れなので小説としてやや破綻しているとの指摘がされるかもしれないが、これは問題解決に向けて邁進する芹沢小町の熱量と解したい。彼女が区議でも都議でもなくいきなり衆議院議員になったのも、法律を変えて予算を勝ち取ることができるのは国会議員だけだからである。そのためなら彼女は何でもする気なのだ。ライバル党に小野塚遼子というやはり新人議員を配するのもいいし、脇役にいたるまでの人物造形もいい。

 はたして芹沢小町の願いは成就するのか。ラストまで一気に読ませる「政治エンターテインメント」だ。

 (実業之日本社 1650円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動