北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「ワン・モア・ヌーク」藤井太洋著
新国立競技場にどうやって原子爆弾を持ち込むのか――。すでに原爆テロを予告しているのだ。都内は厳重な警戒態勢下にある。その中をどうやって持ち込むか。 ここが嘘くさいと全体のリアルが崩れ落ちる。…
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「『馬』が動かした日本史」蒲池明弘著
日本は「草原の国」であったという指摘が新鮮だ。本書の論考をしばらく追う。 それは火山の国であったからだ。火山のまわりに草原ができやすいのは、巨大な噴火によって火砕流、溶岩がちらばり、その上に…
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「生物学探偵 セオ・クレイ 街の狩人」アンドリュー・メイン著、唐木田みゆき訳
9年前に失踪した息子の事件を調べてほしい、とセオ・クレイが依頼されるところから始まる物語だ。依頼者はもう息子の生存を諦めている。なにしろ失踪してから10年近くたっているのだ。しかし、やっぱりこのまま…
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「バンコクドリーム」室橋裕和著
副題に、「Gダイアリー」編集部青春記、とある。寡聞にして知らなかったが、Gダイアリーとは伝説の雑誌だったらしい。タイを中心にした歓楽街のガイドであり、旅行雑誌であり、アジアのルポルタージュ誌でもあっ…
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「55」ジェイムズ・デラーギー著 田畑あや子訳
54人を殺したシリアルキラーから逃げてきた、と男が駆け込んでくる。おまえは55人目だ、と脅されたというのだ。オーストラリア西部の小さな警察署を預かる巡査部長チャンドラーは緊張して応対するが、事が複雑…
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「キッドの運命」中島京子著
近未来小説である。原発が2度事故を起こし、特に首都の近くで起きたために、首都が福岡に代わった時代が舞台。とはいっても、その背景には深く立ち入らない。そういう時代に人々はどうやって生きているのか、とい…
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「黒武御神火御殿三島屋変調百物語六之続」宮部みゆき著
江戸怪談シリーズの第6弾である。シリーズとはいっても内容が続いているわけではないので、これまでの諸作を未読の人でも安心して手に取られたい。しかも前作で第1期が終了し、ここから第2期が始まるのだ。この…
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「翡翠城市」フォンダ・リー著 大谷真弓訳
カッコいい。そんな感想がぴったりの小説である。アクションがひたすらカッコいいのだ。ラストの凄絶なアクションまで、一気に突き抜けるから素晴らしい。 世界幻想文学大賞受賞、と帯にあり、さらにSF…
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「わたしの美しい庭」凪良ゆう著
統理と百音は、やや不思議な関係だ。統理の元妻が再婚して生まれたのが百音なのである。その百音の両親が交通事故で亡くなったので、統理が引き取って一緒に暮らしている。つまりこの2人は血がつながっていない。…
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「月の落とし子」穂波了著
「宇宙船墜落タワマン炎上バイオハザードミステリ」と、担当編集者がツイッターに書いていた。うまいことを言うものだ。本当にその通りなのである。 冒頭の宇宙空間のくだりが素晴らしい。スリルとサスペン…
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「熊の皮」ジェイムズ・A・マクラフリン著、青木千鶴訳
ライスが管理人を務めている自然保護地区から、胆嚢を切り取られた熊の死体が発見されるのがこの長編の幕開けである。密猟者の仕業と思われるが、地元民の協力はなかなか得られない――と展開していくミステリーで…
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「ダイエットの神様」南綾子著
帯に大きく、「女よ、男なんかのために痩せるな」というコピーがついていて、それが目を引く。その下に小さく、「あなたの背中を押すハイカロリー小説」とある。うまいコピーだ。ダイエット小説であるのに、痩せる…
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「芽吹長屋仕合せ帖日照雨」志川節子著
志川節子は2003年にオール読物新人賞を受賞してデビューした作家だが、第1作品集「手のひら、ひらひら」が上梓されたのは2009年であった。その後も、10年間で6作しか上梓していないというのは、現代で…
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「新蔵唐行き」志水辰夫著
岩船新蔵、ふたたびの登場である。前作「疾れ、新蔵」では、10歳の志保姫を国に届けるために旅に出たが(その途中で、駕籠かき2人、継ぎはぎだらけのぼろを着た若い娘、さらに彼女の連れたイノシシが合流して5…
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「終の航路」カサンドラ・モンターグ著、新井ひろみ訳
ヒロイン冒険譚である。わが子を父親に奪われた母親が、どこまでも追いかけていく話だ。なんだ、よくある話だ。そう思われるかもしれないが、けっしてよくある話ではない。なぜなら、時代が2130年、地球上のほ…
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「大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件」カーク・ウォレス・ジョンソン著 矢野真千子訳
超面白ノンフィクションだ。大英自然史博物館から、珍しい鳥の標本が盗まれた実際の事件を、克明な調査を積み重ねて描きだすのだが、そのディテールが面白いので一気読みである。 事件が起きたのは200…
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「マンハッタンの狙撃手」ロバート・ポビ著 山中朝晶訳
何げなく読み始めたら意外に面白かった、という本が時にある。これはそんな本だ。 主人公の大学教授ルーカス・ペイジは、以前はFBIの捜査官だった。10年前に事故に遭い、今は義足と義手と義眼をつけ…
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「スナック墓場」嶋津輝著
注目すべき短編集の登場である。2016年に「姉といもうと」でオール読物新人賞を受賞した嶋津輝の第1作品集が本書なのだが、その受賞作が素晴らしい。 ヒロインの里香は高校生のときに幸田文を知り、…
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「競歩王」額賀澪著
競歩は常にどちらかの足が地面に接していなければならない。両方の足が地面から離れると、ロス・オブ・コンタクトという反則を取られる。もうひとつは、前に出したほうの足は接地の瞬間から地面と垂直になるまでの…
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「妻の終活」坂井希久子著
一ノ瀬廉太郎はいつも威張っている。特に妻の杏子に対しては横暴だ。たとえば杏子が病院に一緒に行ってくれませんかと言っても、そんなに急に仕事を休めるわけがないだろ、と相手にしない。「仕事と言ったって、嘱…