著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「うちのレシピ」瀧羽麻子著

公開日: 更新日:

 街中の小さなレストランの一人娘・真衣と、そこで働くシェフの啓太が結婚することになり、冒頭は両家の顔合わせに、啓太の母・美奈子が現れないくだり。仕事が忙しかったのだが、全然悪びれない美奈子とそれをかばう父の雪生。対して真衣の父・正造はむっとしているから前途多難、という一編だ。それぞれの性格と特徴がよく出ている挿話といっていい。

 連作長編なので、次の章は当然その後日譚になるのだろうと思っていると、中学2年の真衣を、母の芳江の視点で描く章になるから、奥行きが広がっていく。この構成が素晴らしい。続いて、小学2年の啓太を雪生の側から描き、さらに結婚披露宴のどたばたを美奈子の視点で描くというように、過去から現在へと自由に飛び回って奔放である。

 真衣と啓太の娘、つまり孫娘・亜実に正造がクッキー作りを教える話になったかと思うと、最後は両家の顔合わせの日に戻って、あのあとどうなったかを真衣が語りだすのだ。

 レストランの一人娘と若きシェフが物語の中心にいるので、当然ながらさまざまな食べ物がキモになっているのも興味深い。チョコレートケーキ、すきやき、ミートソース、おにぎり、クッキー、ハンバーグなどが次々に登場して彼らのドラマを盛り上げていく。

 瀧羽麻子はコンスタントに佳作を書き続けている作家で、読者の期待を裏切らないのは見事。これもそうした一冊だ。

(新潮社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    不倫報道の福原愛 緩さとモテぶりは現役時から評判だった

  2. 2

    小泉進次郎氏が自民総裁選に出馬意向も評価真っ二つ…《こいつだけはダメ》が噴出するワケ

  3. 3

    石川佳純がパリ五輪キャスター“独り勝ち”の裏で福原愛が姿消す…マイナスイメージすっかり定着

  4. 4

    「海のはじまり」は地に落ちたフジ月9の象徴か…TVコラムニストが薦める意外な視聴者層

  5. 5

    「建築界のノーベル賞」受賞の権威が大阪万博をバッサリ!“350億円リング”「犯罪だと思う」

  1. 6

    男子バレー髙橋藍の胸から消えた「ネックレス」の謎…1次Lから着用も、イタリア戦では未装着

  2. 7

    石川佳純の争奪戦からフジテレビが脱落情報!五輪キャスター起用でアドバンテージあるはずが…

  3. 8

    総裁選に出馬表明の小林鷹之氏やたら強調も…育った家庭は全然「普通」じゃなかった

  4. 9

    柔道ウルフ・アロンが“弟分”斉藤立を語る「仏リネール選手はタツルに持たれることを恐れていた」

  5. 10

    男子バレーに危険な兆候…“金メダル級”人気はパリ五輪がピーク? 28年ロス大会へ不安山積