「うちのレシピ」瀧羽麻子著
街中の小さなレストランの一人娘・真衣と、そこで働くシェフの啓太が結婚することになり、冒頭は両家の顔合わせに、啓太の母・美奈子が現れないくだり。仕事が忙しかったのだが、全然悪びれない美奈子とそれをかばう父の雪生。対して真衣の父・正造はむっとしているから前途多難、という一編だ。それぞれの性格と特徴がよく出ている挿話といっていい。
連作長編なので、次の章は当然その後日譚になるのだろうと思っていると、中学2年の真衣を、母の芳江の視点で描く章になるから、奥行きが広がっていく。この構成が素晴らしい。続いて、小学2年の啓太を雪生の側から描き、さらに結婚披露宴のどたばたを美奈子の視点で描くというように、過去から現在へと自由に飛び回って奔放である。
真衣と啓太の娘、つまり孫娘・亜実に正造がクッキー作りを教える話になったかと思うと、最後は両家の顔合わせの日に戻って、あのあとどうなったかを真衣が語りだすのだ。
レストランの一人娘と若きシェフが物語の中心にいるので、当然ながらさまざまな食べ物がキモになっているのも興味深い。チョコレートケーキ、すきやき、ミートソース、おにぎり、クッキー、ハンバーグなどが次々に登場して彼らのドラマを盛り上げていく。
瀧羽麻子はコンスタントに佳作を書き続けている作家で、読者の期待を裏切らないのは見事。これもそうした一冊だ。
(新潮社 1500円+税)