「アクティベイター」冲方丁著
中国のステルス爆撃機が「我、亡命を希望す」と交信したあと、羽田空港に突如、舞い降りる。しかも積んでいるのは核兵器、とその爆撃機の女性パイロットが言うから騒然。本書は、この緊迫した場面から始まる物語である。
亡命の希望は本当なのか。何かの策略なのか。背景にはどんな陰謀があるのか。警察庁の鶴来は、女性パイロットを事情聴取しようと羽田から護送するが、その途中に何者かのグループに拉致され、ここから先は、錯綜というか、混迷の一途。核起爆の鍵を握るパイロットの身柄をめぐり、中国の工作員、ロシアの暗殺者、そしてアメリカの情報将校、さらには韓国の追跡者までもが追ってきて、複雑に絡み合うのである。
しかも、警察の情報が流れているようで、内部の人間も信用できない。経産省、外務省などの日本の各省庁の争いも、思惑のぶつかり合いという範疇を超えて鶴来の前に立ちふさがる。いったい誰が味方で、誰が敵なのか、皆目わからないという状況に鶴来は立たされるのだ。
これだけでも緊迫感あふれるサスペンスを十分に堪能できるが、実は本書を際立たせているのは、アクションシーンの迫力だ。これが素晴らしい。ここを叩くとどうなるか、と具体的に語りながら進めていくのでわかりやすく、ひとつずつの動作がスローモーションを見るかのように映像的なのだ。その息つく暇ないアクションの完成度に拍手。
(集英社 1900円+税)