「詰むや、詰まざるや」長谷川晶一著
「森・西武VS野村・ヤクルトの2年間」という副題が付いた本だ。1992年と1993年の日本シリーズは、この2チームが激突した。その全14試合を現時点から振り返ろうという本である。
両チームの監督は、現役時代ともに名捕手といわれ、監督になってからはいずれも緻密な野球を得意としていたので、この2年間の日本シリーズは名試合といわれている。いまから30年近く前のことであるから、若い読者は知らないことばかりだろうが、本の冒頭にその全14試合の結果が載っている。92年は西武が勝ち、93年はヤクルトが勝った。結果が分かっているのなら、そんなの再現したってつまらないと言う方がいるかもしれないが、これが抜群に面白い。読んでいるだけで血が脈打ってくる。
たとえば、93年の第4戦、ヤクルトが1対0で迎えた八回の表。西武の鈴木健がセンター前ヒットを放ち、二塁ランナーの笘篠誠治がホームに突っ込んで、飯田の好返球で刺されるシーンがある。このシーンをさまざまな選手、コーチ、監督の証言を積み重ねて、再現するのだが、何げないシーンにいろいろな意味と思惑があったことを私たちは知らされるのである。その奥行きの深さが圧巻だ。
はるか昔のことであるから、えっ、おれがホームランを打ったのと細部を忘れている選手もいるが、克明に覚えている人もいて、それもリアルだ。活字野球の醍醐味がここにはぎっしりと詰まっている。
(インプレス 2000円+税)