著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「死ぬまでにしたい3つのこと」ピエテル・モリーンほか著 加賀山卓朗訳

公開日: 更新日:

 冒頭はショッキングだ。主人公が病院のベッドで目を覚ますと、隣のベッドには24時間前に彼に銃口を突きつけていた男が眠っていたからだ――おお、なに、それ。と思わず言いたくなる幕開けだ。

 主人公のジョンはFBIの捜査官で、麻薬カルテルに潜入していた経緯が急いで語られる。組織にもぐり込んだ人物を追及されるシーンも描かれ、その緊迫した場面から、いろいろあって病院なのである。このあたりは冒頭の読みどころでもあるので、詳しい紹介は省略する。

 とにかくジョンは、裁判後に故郷に帰ることを決意する。証人保護プログラムでは、容易に追跡される場所は避けるのだが、弟が殺人容疑で捕まり、現地警察は頼りにならないから、救出に向かうのである。

 本来なら容疑者の身内が捜査チームに入ることはできないが、ジョンは身分を偽ってチームに入り込む。その正体がバレればチームを追われてしまい、さらに居所がバレれば組織の殺し屋がやってくる。ようするに、二重の秘密をかかえながら、真犯人捜しが始まることになるのだ。

 個性的なわき役たちの造形がいいし、余韻あるラストもいい。これはシリーズの第1作で、この春に第2作も出るということなので、こうなれば続きを読みたい。気になることがあるのだ。一気読みのスウェーデン・ミステリーの快作だ。

(ハーパーBOOKS 1440円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…