「2016年の週刊文春」柳澤健著
とびきり面白い本を読んだ。たとえば、週刊文春1993年4月29日号に載った「山崎浩子独占手記 統一教会も私の結婚も誤りでした」の内幕話が、ちょうどこの本の真ん中あたりに出てくる、その手記を読んだ編集長の花田紀凱が「これは平成三大手記のひとつだよ」と言うので、当時の担当デスク松井清人が尋ねる。
「残りのふたつは何ですか?」
このときの花田紀凱の返事がいい。にやりと笑ってこう言うのだ。
「これから『週刊文春』が取るんだよ」
松井清人はこう述懐する。
「花田さんは人を夢中にさせる天才だよ。花田週刊には俺のほとんどを注いでしまったような気がする」
本書は文藝春秋という会社のこと、週刊文春を創刊したもののライバルである週刊新潮を部数でなかなか抜けず、しかしスクープをめざして多くの記者が奔走したこと――そういう週刊誌の世界を具体的に描いたドキュメントだが、読み終えると、花田紀凱という編集者が強い印象を残す。ダイエー監督になった田淵幸一が叩かれたことを思い出す。あまりに勝てなかったからだ。そのとき週刊文春のつけたコピーが秀逸だった。
「田淵よ、全部負けても6位じゃないか」
もちろん花田紀凱が編集長だったときだ。30年前のことだというのにまだ覚えているから、名コピーは偉大だ。その息吹が、柳澤健の躍動感あふれる文章で、ぐんぐん立ち上がってくる。
(光文社 2300円+税)