「バイター」五十嵐貴久著
伊豆の沖合の島で、突如としてウイルス感染症が発生する。罹患すると、人の血肉を求める凶暴な存在になる(政府はそれをバイターと命名)厄介な感染症だ。なにしろ死なないのである。銃で心臓を撃ち抜いても、まだ人を襲ってくる。頭部を銃撃しないかぎり、止めることはできない。つまりはゾンビだ。
このゾンビの弱点は、1メートル先のものも見えないほど視力が弱いことと(ただし、嗅覚と聴覚は異常なほど高まっている)、歩くのが遅いこと。だから音を立てなければ逃げることは不可能ではない。対して、一度捕まったら、力が強大なので、もう逃げることはできない。バイターウイルスに罹患しても、助かる方法はある。潜伏期間を経て昏睡期に入り、一度目覚めたのちにゾンビとなるのだが、救出方法は1つだけ。昏睡中にラザロワクチンを投与することだ。しかしこれも、1割はワクチン投与の段階でショック死し、3割はワクチンの効果もなくバイター化し、助かるのは6割のみ。万全の方法ではない。
この未曽有の感染症が発生した島から、首相の一人娘を救うために、自衛隊と警察の混成チームが派遣されて、物語が始まっていく。バイターとなる前に救出することは可能なのか。台風が迫り来る島を舞台に、緊迫の救出劇が展開していくのだ。迫力満点のゾンビ小説だ。
(光文社 1600円+税)