「ヨンケイ!!」天沢夏月著
ヨンケイとは、4×100メートルリレーのことだ。リレーは日本語で継走といい、4人の継走は「四継」だから、ヨンケイ。
このヨンケイの不思議で、素晴らしい点は、4人のベストタイムの合計よりも、リレーのタイムのほうがいいこと。つまり、バトンでタイムが縮むわけである。個人競技が多い陸上で、そういうチームワークが結果に直結する競技は珍しい。
にもかかわらず、離島・大島の渚台高校の陸上部(部員はたった5人。1人はハードルの選手なので、残りはぎりぎりの4人)の面々は、信頼もなく友情もなく、チームワークは最悪だ。リレーなんて走りたくない、というやつまでいたりする。
彼らが都大会に出るには、支部予選で上位8校に入らなければならない。都大会には各支部上位8校の合計48校が出場し、その上位6校が関東大会に出場する。陸上部の佐藤先生は関東を狙うと言うのだが、その道のりは、はるかに遠い。ちなみに、関東大会には各県から6校で合計48校が出場し、その上位6校がインターハイに出場できる。めまいがしそうなほど遠い目標といっていい。
というわけで、渚台高校の陸上部4人のドラマが始まっていく。それぞれの事情とドラマがゆっくりと語られていく。やや常套的ではあるものの、丁寧に、そして克明に描いていくので、どんどん物語に引きずり込まれる。彼らが走るときに頬に感じる風の匂いが、鮮やかに立ち上ってくる。
(ポプラ社 1500円+税)