「父子ゆえ」梶よう子著
浮世絵の摺師、安次郎の長屋に、5年前に死んだ女房の兄がやってきた。祖父母の元に預けていた息子の信太が親指を骨折して熱を出したというのだ。
あわてて駆けつけた安次郎は、浮世絵の彫師になりたいと言っていた信太の将来を案じたが、そこへ弟分の直助が訪ねてきて、絵師が描いた役者絵が似ていないと、役者が文句を言ってもめているという。
回復した信太を連れて長屋に戻った安次郎は、問題の役者絵を見て、絵師が女形の一瞬の表情を切り取ろうとしたことを見てとった。役者絵は師匠の国貞が描き直すことになり、彫りと摺りを任された伊之助と安次郎は一計を案じる。
摺師の誇りと親子の情愛を描く3編の連作。(角川春樹事務所 1300円+税)