弥生坂 緑の本棚(大田区・池上)店主が植物と古本の組み合わせに開眼
「根津・弥生坂の『緑の本棚』、2月に池上に移ったよ」と風の便りに聞いて、移転後の初訪問。門前町の雰囲気いいな~と本門寺通りを歩いて……の後が少し難しかった。細い路地に面した築72年の一軒家だったからだ。
「立ち退きになりましてね。以前と同じ20坪くらいのところがやっと見つかって」と、店主の綱島則光さん(59)。元々は花屋に勤務。廃棄する分厚い古本をくりぬいた植木鉢を使ったのをきっかけに、植物と古本の組み合わせに開眼した人だ。以前の店は「植物と古本、売ります+カフェ併設」の形で2016年に開店。今回の店も?
「ゆくゆくは2階を植物とギャラリー、瓶入り飲み物提供の場にしたいですが、まだ手が回ってません」
玄関で靴を脱いで上がり、右へ左へ。3~6畳くらいの4部屋ほどがつながり、本は推定約9000冊。
「そのうち3000冊ほどが植物・生物関係です」とのこと。
大半が古本だが、新刊がかたまった一角もあり、あ、鈴木純著「冬の植物観察日記」だ、「命つながるお野菜の一生」だ。旧知の友に出会ったように喜んでいると、「この著者もご存じですか。今、キテますよ」と綱島さん。
園芸から自然保護まで幅広く“植物本”が集合
「カモメの日の読書」を手に、「南フランス在住の俳人、小津夜景さん。漢詩の翻訳文とそこから生まれる感覚と日常をつないだエッセーです」と前のめりに説明してくださる。やはり植物と関係が?
「直接はないですが、何についてもすごく物知りな方なので、植物もきっと。対談した池澤夏樹さんが彼女の博学ぶりに驚かれてました」
気になる!
「あ、そうそう、これは」と花の美しい拡大写真が載った一冊を綱島さんが取り出す。「今たまたま来られている農学博士・作家のマイクロノベルです」と。おや、失礼しました。あちらの部屋の椅子に座ってお一人がくつろいでらした。「藤田雅矢と申します。花の写真をツイッターに上げて遊んでいたんですが、だいぶたまったので、一冊にまとめました」とおっしゃる。おのおのの花の写真から発想したマイクロノベル、つまり100字小説だ。面白そう!
かくかくしかじか。ひと口に植物本といっても、園芸書、図鑑、自然保護など自然科学系のほか、植物と文学、哲学、動物、食を掛け合わせたタイプもわんさかなのである。さらに民俗学、宗教系の棚の充実ぶりたるや。
◆大田区池上4-26-9/℡03・3868・3254/東急池上線池上駅北口から徒歩5分/11~19時(日曜18時まで)、月曜休み・木曜不定休
ウチの推し本
「イモヅル vol.3」藤田一樹発行 500円
「2016年からおよそ1年1冊のペースで、『サツマイモと、人と、本のまわり』をテーマに9号まで発行されているリトルプレスです。『北限の芋』『戦と芋』など毎回特集が組まれていて、この号は『コドモとイモ』。芋掘り遠足はいつ、どのように始まったのかという調査あり、昔懐かしい芋の菓子の紹介あり。書店『Title』店主の辻山良雄さんのエッセーあり。なかなか深い内容で、読み応えありますよ」