ビートルマニア再来!
「マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説」ケネス・ウォマック著 松田ようこ訳
ビートルズのファンを指す「ビートルマニア」。いま久方ぶりのマニア愛があふれる!
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「マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説」ケネス・ウォマック著 松田ようこ訳
ビートルズの行く先にはいつもこの男が寄り添っていた。身長2メートル近い大男だが、気は優しくて力持ち。ポールの重たいアンプを軽々と持ち上げてリンゴを仰天させ、無名時代のジョージは彼の家で奥さんの作るベーコンエッグがお気に入りだったという。それがマル・エヴァンズ。ビートルズの伝説のローディー(ロードマネジャー)だ。
本書はこの陰の男の評伝。リバプールでの生い立ちからエルビス・プレスリーの大ファンになる一方、郵便局員として堅実な生活を営む。結婚して子どもも生まれたが、地元のキャバーン・クラブで週末だけ用心棒のバイトをしていた。そのうちビートルズのメンバーと親しくなり、やがて郵便局を辞めて専業のローディーとして世界を駆けまわることになった。群がるグルーピーを選別し、自分で“味見”してからメンバーにつなぐこともしばしばだったという。ビートルズ解散後はプロデューサーとしても活躍したが、糟糠の妻とは離婚し、そううつが激しくなり、最後は誤解から警官に射殺されて悲劇の結末となった。
800ページにおよぶ大冊だが、最後まで飽きさせない不思議な魅力があふれる。 (シンコーミュージック・エンタテイメント 5500円)
「ビートルズVS.ストーンズ」ジョン・ミクミライアン著 梅崎透訳
「ビートルズVS.ストーンズ」ジョン・ミクミライアン著 梅崎透訳
永遠のライバルといわれたのがこの2大ロックバンド。ビートルズはポールとリンゴが生き残り、ストーンズはミック、キースらが健在。本書はコロンビア大学出身の歴史学者が両者を比較した学術的な大衆文化論だ。
ビートルズとストーンズは若手のころは仲が良かったが、ファン層は明らかに異なり、ビートルズは10代の少女たちに大人気の「ファブ・フォー」(素敵な4人組)、ストーンズは長髪で反抗的な不良のシンボルだった。しかもビートルズが次々にオリジナル曲をヒットさせたのに対して、ストーンズではブライアン・ジョーンズ中心からミック・ジャガーとキース・リチャーズが支配するバンドへと変貌をとげるなどの移ろいもある。
ファンなら周知の事実も新しい視点から分析が加えられる。イギリス出身の両バンドのアメリカへの姿勢や政治との距離の取り方の違いなど、音楽ファンの域をこえる考察も面白い。 (ミネルヴァ書房 2970円)
「アンダーグラウンド・ビートルズ」藤本国彦、本橋信宏著
「アンダーグラウンド・ビートルズ」藤本国彦、本橋信宏著
1956年生まれと61年生まれのライターと編集者。ともに中学時代からビートルズを聴き込んで育ったふたりが語り明かす。
本書によると、日本で最初にビートルズの動向を伝えたのは毎日新聞。記憶の中の記事を探し出すところから始めてトリビアな話へ入っていく。
ネットなどない時代、わずかな情報が頼りゆえアルバムジャケットの表裏を間違えて雑誌に載せたり、専門のロック評論がないためジャズ評論家が兼ねていたなど、ほほ笑ましい話題のかたわら、ドラッグ話も満載。4人の中ではジョンがマリフアナ、コカイン、ヨーコと付き合いだしてヘロイン、LSDと何でもござれ。ポールは反対に慎重派だったらしい。ジョンは幼少時の両親の離婚のトラウマから自虐的で破滅型だったのだ。
アイドルに絶叫する少女ファンはビートルズ現象から始まったが、この話題からボーイズラブに腐女子に横山光輝、谷岡ヤスジまで話がどんどん連想でふくらんでいくのも楽しい。息の合ったオジサンふたりの掛け合いがビートルマニアらしい一冊だ。 (毎日新聞出版 2640円)