「付き人のようにそばに」 秋野太作が語る故・渥美清との17年
それを見るに見かねたのでしょう、ある屋外ロケの際、渥美さんが私の後ろに立って祝詞をあげるような節回しで、「テキドノォ センストォ リカイリョクヲ モッテェ ナガレルヨウニィ ナガレルヨウニィ」と誰に言うわけでもなく歌ったのです。
「適度のセンスと理解力を持って 流れるように流れるように」。真意は「気楽におやりよ」。それがわかった途端、次の演技からうまくやれたのですから不思議です。
■下町生まれでウマが合い…
次にご一緒したのが1年後のフジテレビ版「男はつらいよ」。寅次郎のような香具師に憧れる青年「川又登」役です。その後、立て続けに3本のドラマで共演し、69年8月公開の映画「男はつらいよ」では同じく登役をいただき、第10作「男はつらいよ 寅次郎夢枕」(72年)まで、まるで付き人のようにそばにおりました。
実は15歳年上の渥美さんと私は同じ東京・上野の下谷車坂(現在の台東区役所付近)生まれ。もちろん直接の接点はないのですが、独特の下町風情や人情の機微、いなせな心意気……そんな生まれついての“匂い”が似ていたのか、お互いに口に出さずとも理解し合うことができて、すごくウマが合ったんですね。