<第1回>何の根拠もないのに「いつかパルコに立つな」と
「あ、やっぱり来たと思いました。不思議な縁で結ばれていたんですね」
古典芸能の興行は入らないといわれた渋谷での落語公演に、当時42歳の志の輔が挑戦したのである。
「1年目はやたら力が入るだけで、新作落語3本をネタ下ろしするのに苦しんだことだけ覚えてます。古典落語の焼き直しみたいなネタで、後悔と古典に対する畏敬の念が深まっただけでした」
初回からうまくいったわけではないのだ。それでも再び依頼があって2年目は4回公演になり、5回、6回、10回と年々増えていった。
ネタのクオリティーも年々高まり、3年目には東野圭吾の小説を落語化した「しかばねの行方」を演じ、喝采を浴びた。
「以前から清水義範さんの短編を落語にして演じていました。小説を落語にするのは他の人がやってなかったと思います」
団地に遺棄された死体を見つけ、住人がパニックを起こし、夜中に捨てにいくという話で、「登場人物がパニックを起こすことによる大騒動」という“志の輔落語”の方向性が見えてきた。(つづく)
(聞き手・吉川潮)