「ある殺し屋」時系列を崩した裏切りのいきさつが面白い
塩沢は店では和服、仕事でも和服でパーティー会場に潜り込む。拳銃を持っていながら針を使い、標的のうなじを刺して即死させる。ドラマ「必殺仕掛人」(72~73年)を思い出してしまう。
雷蔵の洋服姿もいい。後半はダークスーツをまとったニヒルな塩沢がボロアパートを借りて麻薬強奪を立案するが、ここに罠(わな)が仕掛けられている。前田と圭子が塩沢を殺してカネを奪おうと企んでいるのだ。
女がセックスによって男を裏切るのはヤクザ映画で見かける光景。本作でも圭子が愛欲と金銭欲に駆られる。時系列を崩した構成のため裏切りのいきさつが一層面白く味わえるという寸法だ。だが殺し屋は常に冷静沈着。細心の注意で落とし穴を回避し、かっこよく去って行く。
ちなみに雷蔵は69年に37歳で死去。小池は85年に54歳で、成田は90年に55歳で没した。殺しに絡んだ男たちがそろって早死にしたことになる。 (森田健司)