「曽我兄弟 富士の夜襲」に見る仇討ちと特攻隊の相似形

公開日: 更新日:

 公開された56年は敗戦から11年。観客はまだ天皇に命を捧げる報国の精神が強かった。孝子が持つ「忠君・孝親」の精神に胸を打たれただろう。

 不可解なのが恩人の畠山の言動だ。幼い兄弟を救い、夜襲では祐経の陣屋を教えて手助けする。だが十郎が祐経を討ち果たすと一転。「本懐遂げし上はなぜ潔く自害せぬ」と叱りつけ、「死ね、死ね、死ね」と鬼神のごとく斬りかかる。これも国が十死零生を強制した時代の名残か。また、当時の観客は違和感を覚えなかったのか。畠山の「心中」を想像しながら見るのも面白い。

 一方、五郎は捕縛され、頼朝に思いの丈を語る。彼は化粧坂少将の柔肌に触れずに散る運命だ。そういえば特攻隊員には童貞のまま出撃した若者が少なくなかったという。特攻隊員も五郎も青春を知らず、忠君・孝親のために命を閉じた。死ぬための短い人生。ラストで五郎が見せるすがすがしい笑みは何を物語っているのだろうか。

(森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 2

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  3. 3

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  4. 4

    大阪万博開幕まで2週間、パビリオン未完成で“見切り発車”へ…現場作業員が「絶対間に合わない」と断言

  5. 5

    マイナ保険証「期限切れ」迫る1580万件…不親切な「電子証明書5年更新」で資格無効多発の恐れ

  1. 6

    阪神・西勇輝いよいよ崖っぷち…ベテランの矜持すら見せられず大炎上に藤川監督は強権発動

  2. 7

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  3. 8

    Mrs.GREEN APPLEのアイドル化が止まらない…熱愛報道と俳優業加速で新旧ファンが対立も

  4. 9

    「夢の超特急」計画の裏で住民困惑…愛知県春日井市で田んぼ・池・井戸が突然枯れた!

  5. 10

    早実初等部が慶応幼稚舎に太刀打ちできない「伝統」以外の決定的な差