「曽我兄弟 富士の夜襲」に見る仇討ちと特攻隊の相似形

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 公開された56年は敗戦から11年。観客はまだ天皇に命を捧げる報国の精神が強かった。孝子が持つ「忠君・孝親」の精神に胸を打たれただろう。

 不可解なのが恩人の畠山の言動だ。幼い兄弟を救い、夜襲では祐経の陣屋を教えて手助けする。だが十郎が祐経を討ち果たすと一転。「本懐遂げし上はなぜ潔く自害せぬ」と叱りつけ、「死ね、死ね、死ね」と鬼神のごとく斬りかかる。これも国が十死零生を強制した時代の名残か。また、当時の観客は違和感を覚えなかったのか。畠山の「心中」を想像しながら見るのも面白い。

 一方、五郎は捕縛され、頼朝に思いの丈を語る。彼は化粧坂少将の柔肌に触れずに散る運命だ。そういえば特攻隊員には童貞のまま出撃した若者が少なくなかったという。特攻隊員も五郎も青春を知らず、忠君・孝親のために命を閉じた。死ぬための短い人生。ラストで五郎が見せるすがすがしい笑みは何を物語っているのだろうか。

(森田健司)

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