「桜田門外ノ変」どこか喜劇じみた大老・伊井直弼の最期
2010年 佐藤純彌監督
先週に続いて佐藤純彌監督の作品を紹介。
安政7(1860)年2月、水戸藩士・関鉄之介(大沢たかお)は妻子と別れて江戸に向かった。目的は大老・井伊直弼(伊武雅刀)の暗殺だ。3月3日、関をリーダーとする18人の実行部隊は井伊の行列を急襲して首級を挙げる。だが襲撃と同時に薩摩藩が3000の兵を率いて京都を制圧する取り決めを結んでいたにもかかわらず、薩摩は約束を反故。暗殺の関係者は幕府と水戸藩によって捕縛されるのだった……。
暗殺計画を主軸に、朝廷を無視して米国と条約を結んだ幕府への反発や戊午の密勅事件、安政の大獄の弾圧など混迷の経緯が描かれている。幕末史のテキストともいえる構成だ。
見どころは10分間に及ぶ暗殺場面。雪景色に白刃がきらめき、血しぶきが上がる。裂帛(れっぱく)の剣戟、首を失った胴体、血まみれで自害する男たちなど実に凄惨だ。
事件のその後も興味深い。一般の時代劇は暗殺場面はあっても、その遂行者らが追い詰められる過程にはあまり触れない。本作の特徴は本懐成就を喜ぶ彼らが薩摩藩に裏切られてじわじわと追い詰められ、逃亡を諦めて腹を切る者が出るなど悲劇の実相を描いたこと。実録ヤクザ映画の“人間狩り”のような絶望感が迫ってくる。