「フェリーニのローマ」戦車と裸馬が駆ける狂乱の環状道路
1972年 フェデリコ・フェリー二監督
フェリーニがローマへの愛を捧げた作品。ストーリーはなく、荒唐無稽な映像が続く。「世にも怪奇な物語」(1968年)の「悪魔の首飾り」が好きな人は必見だ。
1930年代、ひとりの若者がローマのアパートに間借りする。そこはマザコン男やだて男、巨体の女など雑多な人々の寄り合い所帯だ。夜のテラスでは民衆が大声で笑い、歌いながら旺盛な食欲を発揮する。
71年の現代。自由に生きる若者たちを大人は堕落したと批判する。一方、昔の高級娼館に目を移せば、男たちが半裸の娼婦を値踏みして楽しんでいる。
再び現代。地下鉄工事を阻むのは古代の文化だ。ローマでは100メートル掘るごとに遺跡にぶつかり、発掘調査で工事がストップ。ある宮殿では老いた姫君が教会のファッションショーを開き、「昔はよかった」と涙を流すのだった。
ローマの昔と今が幾度も交差。喧騒と猥雑を活写して観客に突きつける。
圧巻は薄暮の環状道路だ。
土砂降りの大型道路でトラックや乗用車がせめぎ合う光景をフェリーニの撮影隊が追いかける。沿道には娼婦やデモ隊、機動隊、ヒッピーなど。トラックは横転し、牛は血だまりで息絶え、クルマはワイパーで泥水を拭う。裸馬や荷車、白バイ、ブルドーザーが駆け抜け、気がつけば2台の戦車までが並走。夜のコロッセオに続く道をクラクションと雷鳴が咆哮(ほうこう)する。醜悪の混沌。絢爛(けんらん)たる狂騒。この悪夢めいた映像をフェリーニはチネチッタ撮影所の敷地に500メートルに及ぶセットを組んで撮影した。息をのむ迫力はまさに「悪魔の首飾り」の進化形だ。