軍人と海の男の対立「最貧前線」は戦前化する日本への警鐘
宮崎駿が模型雑誌に発表した「宮崎駿の雑想ノート」のエピソードのひとつを舞台化したもの。わずか5ページの短編を井上桂が脚本化、一色隆司が演出した。
太平洋戦争末期、福島の漁船「吉祥丸」が特設監視艇として日本海軍に徴用される。軍艦のほとんどを失った海軍はアメリカ軍の動向を探るために漁船を使わざるを得なかったのだ。艇長は大塚少尉(風間俊介)、通信長は柳准尉(溝端淳平)、そして、元々の船長である菊池(内野聖陽)、漁労長・及川(ベンガル)、無線士・千田(佐藤誓)らが乗り込む。
実戦経験はあっても漁船での航海に不慣れな軍人たちはクジラを潜水艦と見間違えたり、荒天も予測できない。軍人たちと海の男たちの対立は激しくなるが……。
プロジェクションマッピングを使った大海原の航海、嵐のシーンなど迫力満点。さらに漁船のスケール感を出すため天井に届くような漁船内部の3層の船体セットが圧巻。
公益財団法人「日本殉職船員顕彰会」によると、戦争末期、徴用された漁船・機帆船約1万5000余隻が撃沈。船員の犠牲は6万人余に上る。しかし、命をかけて米軍の動向を無線連絡したものの、ほとんどは米軍に解読され、戦況を悪化させたともいう。2016年に施行された「戦争法」(安保法制)で政府は、予備自衛官となった民間船員に有事の際、自衛隊員や武器を危険地域へ運ばせる計画を進め、予算を盛り込んだ。全日本海員組合が「事実上の徴用だ」と反発したが戦争体制は着々と進んでいる。その意味で、本作はとめどなく右傾化する日本に対する警鐘ともなっている。