「女系家族」3姉妹の遺産相続争いに妊婦の愛人が加わり…
見どころの連続だが、特に印象的なのが姉妹が文乃のアパートを訪ね、産科医に診察させる場面。手足を押さえて無理やり布団に寝かせ、あわよくば死産させたいという悪魔の形相で診察をのぞき見る。猟奇映画のような描写は、人々が怖いもの見たさで見せ物小屋の木戸をくぐった60年代を反映しているようだ。
不気味さを際立たせているのが浪花千栄子。このオバハンは「夜の素顔」(58年)ではヒロインにカネをせびる養母を、「愛情の都」(58年)では結婚をぶち壊す婆さんを演じるなど負のストーリー展開に欠かせない存在だ。浪花の流れるような口上を聞いただけで得した気分に浸れる。
結末は一種のどんでん返し。乳飲み子を抱えた文乃が来訪する直前に扇風機が左右に首を振るのは「いやいや。これから嵐が吹くぞ」と警告しているようだ。小道具に意味を持たせた宮川一夫のカメラに脱帽である。(森田健司)