「しとやかな獣」ネコババ、妾、ヤリマンが描く倫理観崩壊
1962年 川島雄三監督
新藤兼人の脚本を「洲崎パラダイス赤信号」「幕末太陽傳」の川島雄三監督が映画化したブラックコメディーの傑作。
10月の蒸し暑い日、マンモス団地に住む前田時造(伊藤雄之助)は息子の実(川畑愛光)が勤める芸能プロの香取社長(高松英郎)と経理担当社員・幸枝(若尾文子)の訪問を受ける。香取は実が会社のカネ100万円を着服したので責任を取れというのだ。
香取が出て行くと流行作家・吉沢の妾になっている娘の友子(浜田ゆう子)が帰宅。実と友子は時造の操り人形で、実はネコババしたカネを時造に渡し、時造は友子にぞっこんの吉沢から大金をかすめ取っている。一方、実は幸枝と男女の間柄でカネを貢いでいた。幸枝はそのカネで旅館を建てて会社を退社。実との別れ話の中で彼女が香取、計理士、税務署員とも肉体関係だったことが明らかに……。
舞台は団地の一室。テンポのいい会話で登場人物の悪行が暴露されていく。時造は元海軍中佐で戦後事業に失敗し、「バラックで雑炊をすすった惨めな暮らしに戻りたくない」と詐欺行為を正当化する。時造も妻・よしの(山岡久乃)も子供たちも罪の意識はない。