大江千里さんの“最後の晩餐”は他界した父と飲んだビール
もうほとんど意識がないような状態でした。ボクは「パパ」と呼びました。父は新聞記者だったのでなんとなく「字が書きたい」と言っているのがわかった。それでペンを握らせてオヤジの手を押さえたら、紙に「ビール、飲めるか?」と書いたんです。
たまたま一人で飲もうと思ってコンビニでノンアルコールビールを買っていたので、その場でプシュッと開けて2人で1時間半くらいかけて飲みました。ぬるくなりましたけど。レコーディングのスケジュールが入っていたのでニューヨークに帰らなければならなくて、その日に亡くなった。父の死に目には会えなかったけど、お葬式に出る以上に濃密な時間をボクにくれました。
実はちょっと前、ボクも病気でつらい思いをしました。気持ちが悪くて食中毒なのかと思っていたけど、良くならなくて緊急入院。腹膜炎寸前の盲腸で手術しないと命がないという。それで全部取ったのはよかったけど、縫合が悪くて抜糸で失敗して縫い直して再度抜糸しました。七転八倒しました。オヤジが病床で闘っている姿を見てボクが闘ったのはオヤジからもらった体だったんだな、死ぬ前に、全部を大事にしろというメッセージを残してくれたんだなと思いました。