「南極料理人」ラーメンが食べたくなる究極の巣ごもり映画

公開日: 更新日:

 隊員たちにはドラマもある。若い川村(高良健吾)は日本に残した恋人と遠距離恋愛中で、1分710円の電話をかけるが、会話がしっくりこない。金田は夜な夜な食堂に忍び込んでインスタントラーメンを盗み食い。食べ過ぎてもう在庫がないと知るやショックを受け、西村にラーメンをつくってくれとせがむ。「ボクの体はラーメンでできてるんだよ」というセリフはかつての川島なお美のようだ。彼のおかげで見終わったあと無性にラーメンが食べたくなる。

 こわもての本山は電話で妻に敬遠され、他のメンバーたちにからかわれる。その姿はいかりや長介に絡む加藤茶志村けんさながら。こうして基地の中で緩やかな時間が流れ、全員の帰国で幕を閉じる。成田空港の風景がいい。

 この映画の特長は説教くさくないことだ。「南極物語」のような悲劇性を排除し、男たちの境遇をひたすらユーモラスに表現できたのは監督が77年生まれの沖田修一だからだろう。もし団塊世代の監督だったら「とめてくれるなおっかさん」とばかり人情話に走り、大好きな根性論をちりばめて「お国のために命を捧げるのだ」と役者たちを慟哭させただろう。

 ただ、西村が食べながら泣く場面は必要なかったと思う。いきなり湿っぽくなるのだ。やはり日本の観客は涙を見ないと満足できないのか。

(森田健司/日刊ゲンダイ

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 2

    フジテレビ「第三者委員会報告」に中居正広氏は戦々恐々か…相手女性との“同意の有無”は?

  3. 3

    大阪万博開幕まで2週間、パビリオン未完成で“見切り発車”へ…現場作業員が「絶対間に合わない」と断言

  4. 4

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  5. 5

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  1. 6

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  2. 7

    冬ドラマを彩った女優たち…広瀬すず「別格の美しさ」、吉岡里帆「ほほ笑みの女優」、小芝風花「ジャポニズム女優」

  3. 8

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  4. 9

    やなせたかし氏が「アンパンマン」で残した“遺産400億円”の行方

  5. 10

    別居から4年…宮沢りえが離婚発表「新たな気持ちで前進」