狂乱の時代…「バブルへGO!!」 団塊世代は心して見よ!
バブルへGO!! タイムマシンはドラム式(2007年 馬場康夫監督)
今から30年前の1990年、バブル経済がはじけた。本作はその時代にタイムスリップして日本の崩壊を食い止めるコメディー。
2007年、母の真理子(薬師丸ひろ子)に自殺された真弓(広末涼子)は財務省の官僚・下川路(阿部寛)から「キミの母親は死んでいない」と告げられ、秘密の研究所に案内される。実は真理子はここでドラム式洗濯機を改造したタイムマシンの発明に成功。かつての大蔵省が「不動産取引融資の規制」を発動するのを阻止するために90年3月にタイムスリップしたという。このミッションが失敗したら、あと3年で日本は滅びてしまうのだ。
ところが真理子が90年に戻ったことは間違いないものの連絡が取れなくなった。そのため娘の真弓に過去に戻って母に協力して欲しいという。真弓はしぶしぶ承諾して洗濯機に乗り、90年3月に到着。そこはバブルの真っ盛りだった……。
劇中の不動産取引融資規制は90年3月に出た総量規制のこと。バブル崩壊後、経済評論家などは「総量規制が水道の蛇口をギュッと締めたせいで膨大な不良債権が発生した」と政府の無策ぶりを批判した。その無能な官僚に立ちはだかるのが母子の使命だが、2人の目的を察知した大蔵省金融局長の芹沢(伊武雅刀)は強引に規制を発表しようとする。ラストのドタバタ劇から、芹沢のモデルは自民党とべったりの御用学者とも、逮捕された元エリート官僚とも考えられる。
面白いのはバブルの再現だ。若いお姉ちゃんはワンレンボデコンで街を闊歩し、顔は濃いめのメークで眉毛が太い。人々は1万円札を振ってタクシーを止め、若者が集まる船上イベントのビンゴ大会は賞金200万円。まだ無名の飯島直子はお偉いさんに叱られてベソをかき、飯島愛はAVデビュー前だ。カネ余り現象が懐かしい。
先日、50代の芸能ライターと話したら、彼は「今の若者にバブル時代の贅沢ぶりを話しても信じてくれない」と苦笑いしていた。当時は映画やテレビの製作発表は一流ホテルで行い、立食パーティーと豪華なお土産付き。アイドル歌手はわざわざロサンゼルスでレコーディングしていた。芸能人やスポーツ選手が不動産に手を出し、千昌夫は「億昌夫」と呼ばれた。財テク評論家は「日経平均は10万円までいく」とラッパを吹いたものだ。
歴史研究者はよく「立ち止まって歴史を振り返ると、あれが原因だったと気付く」と言う。本作では90年3月がターニングポイント。バブルがはじけ、地上げの先兵の暴力団は暴対法でトカゲの尻尾切りとなった。銀行支店長射殺事件の真相は解明されたのか。カネと暴力のバブルは遠い過去となった。
本作を見て、40歳以上の人は狂乱のあの時代を思い出し、それ以下の人はこんな時代があったのかと呆れるだろう。好景気という快楽が子孫に残したツケは大きすぎた。学生運動で「造反有理」を叫びながら、40代になるや資本主義に魂を売りバブルの企業戦士に変身した団塊世代は心して見よ!
(森田健司/日刊ゲンダイ)