俳優・古舘寛治氏 非難されても政治的発言をやめない理由
周りからは「やめとけ」「やめてくれ」と言われる、だけど…
――ツイッターで絡まれるとしんどくないですか? コロナ禍をめぐり、日本俳優連合理事長の西田敏行さんが政府に対し、俳優が支援の輪から外れていることを訴え、対応を求める要望書を出すと、ネット上で「ズルい」「身勝手だ」などとバッシングに遭いました。
周りからはやめとけ、やめてくれって言われますね。やっぱり家族からは言われますね。著名人が政府に批判的な発言をすると、フザケルナと言う人が出てくるのは、ルサンチマンと言えばいいのか。報われない思いがあって、社会に対する恨みを抱えながらそれを表現することができず、生きていかざるを得ない人が相当数いるんだろうな、と感じます。オレらからすればオマエらは全然恵まれてるよ、ということなんでしょうか。権威主義がキーだと思うんですよ。
――権威主義はファシズム的兆候とも言われています。
集団の中でしか生きられない人間はそもそも、権力におもねる権威主義的な生き物。権力に逆らう人間を疎ましく思ったり、権利を主張する人間を「うるせえ、バカヤロー」と批判するのも自然なことなんですよね。
こう思うんですよ。やるべき仕事が全くできない安倍政権が長く続いているのは、安倍首相がものすごい力を持っているわけじゃない。彼があのポストにいることで、得する人間がいっぱいいる。周囲の権威主義者たちがそれを支えている。
例えば、経団連もそのひとつですよね。アベノミクスは大企業に有利な政策だから。そういう人たちにとっても、政権批判する人間は面白くない。人間は放っておけば権威主義になり、お任せ政治が当たり前になり、無関心が独裁を引き寄せてしまう。この国ではマトモな人間ほど黙り込み、我慢してしまう。日本は危ない、本当に危ない。教育が大事だとしみじみ思います。
――安倍政権は右傾化の教育改革に熱心です。
欧米の徹底した民主主義教育はすごいですよ。民主主義という概念が自然にあるものではなく、いかに人工的に育んでいくものなのか。フランスで暮らす友人の娘さんが通う小学校には「子ども議会」があるそうなんです。選出された「子ども議員」は週1回程度、地元の市議会議員と会議を持って自分たちの政策を発表する。
例えば、市場を開きたいという提案が通れば、市の予算で実現できるんです。娘さんに「いま何に興味ある?」って尋ねたら、「ダンスと政治」だと。フランスの別の友人の高校生の息子さんにも同じ質問をしたら、「演劇と政治」って言うんですよ。「なんで政治に興味あるの? お父さんと話すの?」と聞いたら、「違うよ。デモに行くでしょ」って言う。
まずそこからビックリするんですけど、フランスの高校生は普通にデモに行くんですね。それで、「デモに行くと、大人も子どももいろんな人に出会って、話をするうちに自然と政治が面白いと思い始めた」って言うんです。民主主義が若者の生活の根幹にある社会は、日本とは全く違いますよね。
■コロナ禍で撮影環境改善の兆し
――コロナ禍の影響はどうですか? 撮影が軒並み延期になったそうですね。
最後の仕事が3月後半でした。それ以降、撮影はすべて延期。緊急事態宣言が出て以降はずーっと仕事がない状態でした。宣言が解除されて、ようやく再開され始めたところです。先日の衣装合わせはコロナ仕様でしたね。入り口にはアルコール消毒液が置かれて、スタッフはみなマスクと手袋をして、距離を取りながらでした。キスシーンとか、どうなるのかなあ。アクリル板を立てて撮るのかなあ。いま一番、ツライところなんです。
コロナ禍の前から撮影していた作品の続きを撮っていて、そこに「新しい日常」を取り込もうとすると中途半端になる。本当はみんなマスクしていないといけないわけでしょ? 僕みたいな俳優ばっかりだったらマスク着用で問題ないと思うけど、みんなイケメンとか美人を見たいわけだから。いくらリアルといえど、見る方は嫌でしょう。
一方で、期せずして僕たちが訴えてきた労働環境の改善が実現する兆しが見えてきました。日本では契約書を交わさないまま撮影に入るのが慣例。出演料は事後交渉で、撮影時間もいくらでも延長できる。それがコロナ禍で1日あたりの撮影時間が短縮され、期間を長くする方向になってきた。俳優もキツイですけど、ロクに睡眠も取れないスタッフはもっと大変なんです。ただ、お金の問題はどうなるんだか……。
(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)
▽ふるたち・かんじ 1968年、大阪府堺市生まれ。23歳から5年間、米ニューヨークで演劇を学ぶ。帰国後の01年、劇団青年団入り。07年放送の英会話スクール「NOVA」のCMで話題に。映画「淵に立つ」、ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」「逃げるは恥だが役に立つ」など出演作多数。ドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」で主演。