著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

菅田×小松「糸」のヒットは必然?“歌謡映画”から読み解く

公開日: 更新日:

菅田将暉と小松菜奈、榮倉奈々の新境地

「糸」は、平成元年に生まれた男女2人がたどる恋愛模様を軸に、平成から令和に至る時代を重ねていく構成をもつ。ただ一見すると、話が詰め込み過ぎの感を抱く人もいるかもしれない。確かに、難病、DV、貧困から東日本大震災まで多くの筋書きが盛り込まれている。

 泣かせる場面もふんだんに用意されており、少々、観客に迎合的な印象もあったように思うが、筆者はこう感じた。てんこ盛りのような話の展開から、少し視点をズラしながら一点集中的な見方をしてみると作品の骨格がまるで違ってくる。そのポイントが、主演の2人、菅田将暉小松菜奈、そしてもう1人、重要人物を演じた榮倉奈々の新境地ともいえる熱演だ。これがとても新鮮であった。

 菅田の演技力は、すでに若手実力派俳優として折り紙つきだが、本作の彼が見せた相手を思いやる優しさのしぐさや言葉の数々には、つくづく感心させられた。人間と人間が織りなす大切でかけがいのない心の通い合いが、彼のときにあふれ出る涙とともに広がっていくかのような感動があった。

■“かつ丼シーン”は見もの

 小松には彼女が出演した作品史上、もっとも印象深いシーンがあった。ヒントだけをいっておけば、それは何と異国の地でかつ丼を食べるシーンだ。かつ丼は菅田との約束が破れ去っていく象徴でもあった。榮倉は成長した。相手への思いと、別の男への思いを断ち切れない心の性(さが)が、病を介したなか、見事に演じ分けられていた。少し早いが、円熟期に入ったかのような彼女の入魂の演技に筆者はとにかくうれしかった。

 往年の歌謡映画がなぜ作られたかといえば、歌の人気もさることながら、主演や脇の俳優たちを支持する若者が多かったからだ。「糸」は俳優の人気によって成立している作品である点においても、王道の歌謡映画に見えて仕方なかった。古いタイプの映画といえるかもしれないが、企画の発端に強烈なインパクトをもつ歌があり、そこから派生した話を、人気、実力を兼ね備えた俳優が組み立てる。それらの要素によって、ヒットを形作る作品もあっていい。

 正直に告白してしまえば、筆者は何度も泣かされた。あまりに飛び飛びの涙になるので、もっと順序立てて泣かせてくれとも思ったが、いつの間にか3人の演技に引きずり込まれていく自身がいた。歌謡映画に栄光あれ、である。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動