著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<6>パチンコを向けてきた元気な少年が「さっちん」だった

公開日: 更新日:

子どもたちは汗まみれで走り回り、生き生きとしていた

 その頃は映画が好きで、よく見てたけど、時代はイタリーのネオリアリズモだったね。ロッセリーニの「無防備都市」だとか、(ヴィットリオ・)デ・シーカの「自転車泥棒」が好きで、たまたまオレんちの三ノ輪の近くにある三河島の古いアパートに行ったときに、なんだよ、これは、デ・シーカだぜ、と思ったんだ。それから、ボレックスをかついで、何度もそこに通いつめてね。手回しのボレックスで撮って、写真も撮った。スチールマンがいないから自分がスチールマンになって、一人二役やって、ボレックスとミノルタを抱えて撮ってた。だから、卒業制作は、ボレックスで撮影した16ミリ映画なんだよね。モノクロの30分ぐらいの映画で、「アパートの子供たち」っていうんだ。

 三河島の戦前からのアパート、古くてさ、いいんだよ。戦前にできた鉄筋コンクリートの都営アパートでね。匂いとか汚れとかさ、生きていくことに重要な人間臭さがあるんだよ。

 真っ黒に日焼けした元気な少年がオレにパチンコを向けてきてさ、あわててよけたら、笑いころげてさ。タマが入っていないんだよね。それがさっちんだった。ガキ大将でさ、いちばん目立ってた。でも気が弱くてさ、自分みたいなヤツだなーって思ったね。名前が幸夫だから“さっちん”。オレ、ノブちんって呼ばれてたからね。だから、さっちんには偶然に出会ったんだよ。

 子どもたちが鼻水をセーターの袖口でこすったのがゴチゴチになったりしてて、自分の子ども時代のようだったね。子どもたちが一日中、汗まみれで走り回ってた。生き生きとしてたね。

(構成=内田真由美)

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