「ワラシ」森田童子の引退ライブは葬式のように静かだった
後に彼女のダンナとなるマネジャーのMさんとレコード会社は「明るくて万人受けする曲」を作ってメジャーの仲間入りを狙っていたが、ワラシはかたくなだった。
新宿ロフトでの引退ライブ。初期の曲をメインに選び、いつものように客席は静かだった。
彼女が「この曲を最後に歌手生活に終わりを告げることにします」と話しても、店内はまるで葬式のようにシーンとしていた。選曲自体、最後のこだわりだったと思う。
ライブの後、いつものようにレコード即売会を開いた。ファンの差し出すレコードすべてに長いメッセージを丁寧に書き込んでいた。これも見慣れた光景だった。
亡くなる前年の17年のころから体調を崩し、入退院を繰り返していたと聞いた。76年リリースの「ぼくたちの失敗」が93年にテレビドラマのテーマ曲に採用され、瞬く間に100万枚の大ヒットになっても、ワラシは素顔も本名も明かさず、ひっそりと生きていた。
森田童子の歌声はか細く、柔らかく、幻想的だった。彼女がステージで流す涙が、あまり話題にならなかったのは、ステージの暗く落とした照明のせいだったのか……。