「ワラシ」森田童子の引退ライブは葬式のように静かだった
1983年12月。森田童子は新宿ロフトでのライブを最後に引退した。その10年前の73年。彼女は西荻窪ロフトで初めてライブハウスのステージに立った。今でもファンたちは、西荻窪ロフトを「聖地」と呼んでいると聞いた。私が、デビューから引退までを見届けた唯一のミュージシャンとなった彼女は2018年4月、静かに65歳の生涯を閉じた。
私が「ワラシ」と呼んだ森田童子は、とても不思議な女性だった。リハーサルを終え、本番までの間に西荻窪ロフトの隣の喫茶店に行き、2人でおしゃべりすることがあった。
一緒にアルコールを飲んだことは一度もないから……飲めなかったのだろう。定かではないが。
いつも彼女にこう問うた。「君の歌を聴いているとそれなりに想像はつくが、君の過去に一体何があったんだ?」。いつもニコニコするばかりでワラシは、何も答えようとはしなかった。政治的な話もしなかった。彼女の心情は、ステージから類推するしかなかった。
それでも少しずつ、口を開いてくれるようになった。マネジャーの話題になったことがある。