「あ~オレだ」談志師匠の突然の電話にうろたえる俺なのだ
「あ! 師匠おはようございます。え~、何でしょうか」
「フィンだよ! フィン!!」
出し抜けにフィンと言われても、フィン? フィン? え~っフィンって??? 全く理解できず、ただ口をアワアワとさせる俺に「フィンだよ! 海に潜る時の足のヒレ!!」。
「あ、あー! そのフィンですか! は、はい、確かに師匠に以前に贈らせていただきました」
そうなのだ。それは前年の夏のお中元のことであったと思う。師匠の趣味が意外なことにスキューバダイビング……。といっても、背中に酸素ボンベを装着して海の底で美しさを放つサンゴ礁などを愛でるというレベルにはほど遠い、水中メガネにシュノーケルをくわえ、足ヒレをつけての……ま、早い話が素潜りでの熱帯魚観察だと後々人づてに聞いたのだった。
さらにその人の言葉を借りると、師匠の潜水は尻が常に水面から出ていて海水パンツの尻が濡れたことがないということであった。作り話にしても、あのリビングでのタップダンスを思えばありそうなことだなあ……と、ほくそえんだのだった。