「大物になりたいならワルになれ」を金魚に教えられた俺
師匠の談志の海外出張落語会の最中に師匠宅で一人大宴会を催し、その結果、袴が畳めない大ピンチを迎えたが、弟弟子の志の輔が救世主となってくれて九死に一生を得、破門を免れた俺だったので、あの日を境にスッカリ心を入れ替え、師匠の身の回りのお世話に全身全霊を注ぐ日々を送っていた……というのは真っ赤なウソで、ベーッ(舌を出す)。相変わらずの朝からの掃除などに不満タラタラで過ごしていたのだ。
とりわけ俺が納得できなかったもののひとつに、あの当時、担当になっていた窓のガラス拭きがあった。「ガラスなんて年に一度大掃除の時にやるもんじゃねーの!」という考えの若者が、毎日毎日同じようにガラスをゴシゴシ、息をハーッと吹きかけてキュッキュッの繰り返し……たとえ俺でなくても退屈極まりないことだと思うのだ。
さあ、ここから動物学界を震撼させるような出来事を俺が生み出してしまうのだから、世の中わからない……。
談志の家の玄関の扉を開け、庭に踏み出すその左手に、高さ1メートル、直径50センチほどのこげ茶色の焼き物が置かれていて、その中には水が張られ、2センチくらいの、夜祭りですくってきたような金魚がスイスイと泳いでいたのです。