「あ~オレだ」談志師匠の突然の電話にうろたえる俺なのだ
談志師匠の弟子にさせていただき、過ごした若き日の出来事の一つ一つは現在振り返れば、俺の人生の宝物以外の何物でもない! つくづく思う62歳の冬なのだ。
じゃ、もう一度、あの頃に戻って師匠に付きますか? いやだー! 絶対にいやだー!!
朝からず~っと掃除に魚の骨のふりかけでの食事。揚げ句の果てには、師匠お気に入りのフレッド・アステアやジーン・ケリーというタップダンスの天才のまるで空中を舞うような映像を流し、それに合わせて師匠がタップダンスもどきのステップを上機嫌の鼻歌交じりで踏むのだが、そのステップが床上5センチくらいしか上がってなくて……それを正座しながら見せられる、新手の拷問みたいな経験は二度としたくなーい!!
そういえば、師匠の元を離れた(ビート)たけしさんのところでたけし軍団となった数年後の夏も近づくある日、突然師匠から電話が入ったのだ……。あれも繰り返したくない(本心は懐かしくて仕方ないんだけどね)思い出の一つなのだ。
その日、俺は何の撮影だったかは忘れたが、調布の日活スタジオで仕事をしていたのだ。すると突然、携帯電話の着信音が……すかさず通話ボタンを押すと「あ~オレだ、おまえフィンくれたよなあ……」。あー!! この声はたとえ100歳になって難聴になろうと聞き違いなどしないであろう、師匠のものであった。携帯電話を耳に押し付け、その場で直立不動となる俺……。