感染症が拡大する中での人間の葛藤や希望を描く
ところで、「現代の作家の中で、志賀氏を一番尊敬している」と公言してはばからない新現実主義の作家、菊池寛は「志賀直哉氏の作品」というエッセイで、こう書いている。
<志賀氏は、その小説の手法においても、その人生の見方においても、根柢においてリアリストである。(中略)志賀氏の表現には厳粛な手堅い撰択が行われている。志賀氏は惜しみ過ぎると思われるくらい、その筆を惜しむ。一措も忽ゆるがせにしないような表現の厳粛さがある。氏は描かんとする事象の中、真に描かねばならぬ事しか描いていない。或事象の急所をグイグイと書くだけである。>
このドラマの脚本を担当した長田育恵氏(43)は、文化庁芸術祭演劇部門新人賞、鶴屋南北戯曲賞、紀伊國屋演劇賞個人賞など演劇界で数々の賞を受賞した脚本家だ。最近では、NHK・BSプレミアムで昨年放送された、内舘牧子氏原作、三田佳子(79)主演の終活ドラマ「すぐ死ぬんだから」の脚本を手がけるなど、テレビにも活躍の場を広げている。
その長田氏が、内舘氏とは正反対に「筆を惜しむ」志賀直哉の短編をどう料理するかも見どころだ。ほかに、NHK「昔話法廷~桃太郎裁判~」で被告の桃太郎を演じた仲野太賀(28)、昨年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で、いぶし銀の演技を見せた石橋蓮司(79)などが脇を固める。
▽高橋恵市(フリーライター)山口県出身。大学卒業後、出版社勤務を経てライターに。グルメ紹介や企業広報、テレビ番組批評など幅広く手がける。ペンネームで小説も出版している。