<57>何度も復縁を申し込んだ前妻との間をつないだ愛犬イブ
「冗談じゃないわよ。私がイブちゃんを殺すワケがないでしょ」
頭から湯気が出そうなほどの怒りだった。
「まあ、まあ。本気で言っているワケでもないから」
私がなだめても、彼女の怒りは収まらないどころかエスカレートした。
「もう、こんな家にいられないから。私帰る」
そう言い放って、大下さんは自室の荷物をまとめると、元従業員のDさんの車に乗って大阪方面に走り去っていった。
これは大下さんのいつものパターンでもある。お手伝いを10日程度すると情緒が不安定となり、ささいなことでドン・ファンと衝突してしまうことが多かった。私とマコやんはこれを「ウルトラマンのカラータイマー点滅」と呼んでいた。ピコン、ピコンと音がするわけではないが、抑えていた怒りが爆発するのだ。
せいぜいもって10日で、それを過ぎると大下さんのタイマーは点滅して、最後には爆発してしまう。