五木ひろしの光と影<5>ギター片手に夜の街に出た「流し」の日々
現在「流し」という職業を耳にすることはめったにない。ギターを片手に、夜の酒場や歓楽街を回って、客のリクエストに応じて演奏をする。もちろん、歌うこともある。軽妙なトークで聴かせるのも売りの一つで「1曲いくら」で御代を取る。一晩でどれだけ歌えるかが収入のすべて。ちなみに「弾き語り」と呼ぶ場合もある。
全盛期には新宿だけで100人以上の「流し歌手」がいたらしい。手軽に稼げるということだろう。今で言う「ウーバーイーツ」のようなものかもしれない。夜ともなればそこかしこに流しが姿を見せた。客の奪い合いを起因とするトラブルも多く、殺人事件も起きている。流し同士のトラブルに所轄の警察は神経をとがらせた。それでも、80年代にカラオケが定着すると一気に衰退し、彼らの姿は見られなくなる。とはいえ、流しが日本の歌謡界にもたらした影響は大きい。北島三郎、田端義夫、作曲家の遠藤実など名だたる歌手の多くは流し出身である。おそらく公言している歌手の倍以上はいるといわれる。
■クラブ、キャバレーを転々と…