<90>野崎幸助さん宅の家宅捜索は午後になっても終わらなかった
「社長は遺言なんて書くタマじゃないからなあ」
「そうだよ。もし残すなら公正証書にしておくだろうに。そこになかったら遺言はないということだ。遺産はイブちゃんに残すって、いつも口にしていたから」
Mのぼやきを受けてSさんが言った。
「遺産はいくらぐらいあるんだろう? アプリコはどうなるかな? しょうがなかったら、オレが引き受けようか」
Mは勝手なことをSさんとしゃべっていた。
「アレだもん。だれもMさんに任せようとは思っていないのに。困ったもんだわ」
隣の椅子に腰かけていた私に佐山さんがつぶやいた。彼女はMのことを嫌っていた。
「オレがいたころ、佐山はペーペーで何もできなかったんだから」
そんなどうでもいい昔話を自慢げに言うのだから、佐山さんがMに好意を抱くわけがないが、Mは先輩風を吹かせて彼女に命令口調で接していた。
■遠足のように昼飯を食べながら…