「偏愛蔵書室」諏訪哲史著
「偏愛蔵書室」諏訪哲史著
芥川賞作家が1万冊以上の蔵書から厳選した100冊を紹介する批評集。
「青炎抄」など内田百閒の短編を取り上げた章では、作品のすべての脈絡が不可解で、主人公の「私」とともに「ただ翻弄され、理不尽にも小説世界の側から一方的に見捨てられる」と作品の一端を紹介。その独特の不可解は、作者が「主体的に不可解な『文体=人格』を選びとり、確信犯的に書いているがゆえに不可解なのである」と説く。
ほかにも、たった15ページで「凝縮された物語世界の創造が人には可能である」ことを教えてくれた短編「風呂」(レイモンド・カーヴァー「愛について語るときに我々の語ること」所収)や、渾身の変態(クィア)小説集と評する秋山正美の「葬儀のあとの寝室」など、知られざる文学の迷宮へと読者をいざなう。
(河出書房新社 1320円)