「秀山祭九月大歌舞伎」吉右衛門が一周忌追善興行で知らしめる唯一無二の芸
コロナ禍で3年ぶりとなった「秀山祭」は、主宰者である中村吉右衛門の一周忌追善興行となった。親戚がほぼ揃って、当たり役、ゆかりの演目を上演。
第一部は『菅原伝授手習鑑』の『寺子屋』。松王丸と武部源蔵を松本幸四郎と尾上松緑が日替わりで演じている。幸四郎が松王丸の日を見たが、他人事というか客観的なので、見るほうも冷めてしまう。現代的と言えば、それまでなのだが。
舞踊劇『白鷺城異聞』は吉右衛門が「松貫四」名義で構成・演出したもの。播磨屋だけでなく、萬屋、中村屋も含め、親戚がほぼ揃う。
第二部は、松本白鸚の『松浦の太鼓』。兄弟で同じ父から芸を教わっているので、役も重なる2人だが、芸風はまったく違う。『松浦の太鼓』は吉右衛門の当たり役で、白鸚は縁がなかったが、追悼の意を込めて演じている。吉右衛門が見せていたリラックスした雰囲気はなく、最初から最後までピリピリと緊張する。重苦しくはないが、軽い芝居というイメージが変わった。
『揚羽蝶繍姿』は吉右衛門の当たり役の名場面集。幸四郎と福助の『籠釣瓶花街酔醒』、錦之助と歌昇の『鈴ヶ森』、幸四郎、莟玉、廣松の『熊谷陣屋』など、それぞれのワンシーンを見せているが、中途半端さは否めない。吉右衛門には膨大な映像があるのだから、それを一時間くらいに編集して見せてくれたほうが、ファンは喜ぶのではないだろうか。