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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

井上真央主演「100万回 言えばよかった」を“ゴーストのパクリ”と退けるのはモッタイない

公開日: 更新日:

 突然姿を消した恋人が幽霊となって現れる。姿は見えず、声も聞こえないが、霊媒を介して会話することが出来るのだ。

 多くの人が映画「ゴースト/ニューヨークの幻」を思い浮かべそうだが、井上真央主演「100万回 言えばよかった」(TBS系)である。設定の類似は一種の「本歌取り」だろう。古歌(本歌)の一部を取り込みながら歌を詠む。本歌を連想させることで、新しい歌の内容に親しみと奥行きを与えるという技法だ。

 したがって、見る側は「ゴーストのパクリじゃん」などと退けてはモッタイない。ストーリーはもちろん、井上とデミ・ムーア、恋人の佐藤健とパトリック・スウェイジ、そして霊が見える刑事・松山ケンイチと霊媒師だったウーピー・ゴールドバーグの“差異”を大いに楽しめばいい。

 さらにこのドラマは、井上にとって2019年の「少年寅次郎」(NHK)以来、久しぶりの連ドラ主演作だ。セリフに込めた微妙なニュアンスや表情の変化などをひたすら堪能することが出来る。

 たとえば第3話では、井上が見えない恋人に自分の思いをぶつけた。「私はあなたのことが好きです」に始まる2分半もの“告白”だ。「理屈ではなく、ただ好き」なのだと語り続けるだけなのに目が離せない。井上を支える脚本は、朝ドラ「おかえりモネ」や「きのう何食べた?」の安達奈緒子によるオリジナルだ。

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