(21)入院から3カ月…ようやく“会えた”母は表情を失っていた
母が認知症専門医院に入院してから、携帯電話はナースステーションで預かる形になっていた。電話をしても、看護師が気がついてくれなければつながらず、母と直接話すことはほとんどできなかった。
母の入院生活は、身近な人とほとんど接触することのないまま、3カ月が過ぎようとしていた。母は急に知らない人ばかりの場所に連れてこられ、なぜ自分がそこにいるのかわかっているのだろうか。知っている人が誰も自分を訪ねてこないことに絶望していないだろうか。そんなことが気にかかって仕方ない。
そんな折、病院からZoomでの面会許可が出た。制限時間はわずか15分。画面越しに映し出された母は、白髪がのび放題で、肌はくすみ、頬がこけていた。表情はなく、うつろな瞳でこちらを見ている。
私の声が届いているのかどうか、かすかな反応しかない。その姿は、まるで何かを失い続けている途中のように見えた。人はこんなにも急に、今まで生きてきた世界から断絶してしまうのだ。
母は家に戻ることができるのだろうか。実家では、父が1人で暮らしている。だが、父自身も自分の生活すらまともに維持できているのか怪しい。母が退院して戻ってきたとして、誰が介護をするのか。父には無理だろう。4匹の猫たちもいる。私は東京にいる。この状況で、母の居場所をどうすればいいのか。