<6>ドン・ファンの会社「アプリコ」の従業員同士の関係は非常に希薄だった
そんな彼女も従業員のスケジュール管理をすることはなく、それぞれがバラバラに動いているという不思議な形態の会社だった。番頭格のマコやんにも権限はなく、指令は社長が全てを仕切っていた。
普通に考えればマコやんに管理職的な仕事をしてもらうのが最も効率的だろうが、社員の給料を上げるのが嫌な社長は、ポストを与えたりはしなかった。
それでもアプリコの給料は田辺市内の企業と比較して高額だったから、就職希望者は少なくなかった。
早番担当の従業員は午前5時に出社する。最初にやる業務は、ドン・ファンの自宅の庭の水まきやキッチンのゴミ出しである。早番は13時には勤務時間が終わるので、マコやんら年配の従業員が希望していた。
ドン・ファンの起床は午前2~3時で、早い時には1時に起きだす。2階の寝室から愛犬のイブとリビングに下りてきて、キッチンでイブのドッグフードの用意をするのが日課だった。
私はこの自宅のリビングでひと月近く暮らしたことがある。2017年2月にドン・ファンは、リビングのガラス窓を破壊して侵入した強盗に襲われた。この直後に用心のため、寝泊まりしていたのだ。ドン・ファンの家に宿泊した男性は後にも先にも他にいないのだから、貴重な体験であった。