「時代とFUCKした男」加納典明(4)草間彌生さんを素っ裸にして100億円の絵の上で撮ってみたい
「おっぱい垂れてしなびて。いいですね」
加納「うん。あった」
増田「草間彌生さんは『FUCK』の写真のなかに小さく写ってますね」
加納「ほんの数カットですが」
増田「本当はもっと彼女自身を追った写真を撮りたかったんではないですか」
加納「彼女がニューヨークで自身を開かせている姿を見て感じたのは、僕の仕事での目標『時代のページをめくる人でありたい』という最初の強烈な刺激だったかもしれない。でも当時は被写体として彼女を撮ることに大きな意味を感じなかったんだ。むしろ年月を経た今の姿を撮ってみたいですね」
増田「ぜひ。草間さんはやっぱり撮っておくべき。日本の宝の一人ですから」
加納「もっとこの先そうなっていくだろうね」
増田「1969年に1日だけニューヨークでクロスして、またお互い離れて。それぞれの場でまた活躍してるっていうのは、本当に奇跡的なことです」
加納「いや、当時も思ったけど彼女みたいな人にはそれ以後、会ったことがないな」
増田「ぜひ、撮って欲しいな、いまの草間彌生を」
加納「向こうが『いいよ』ということだったら行きますよ」
増田「典明さんが撮らずに、誰が撮るんですか。プロフィル的なのは残ってるでしょうが、本物の写真家が撮った本物の写真はないでしょう。彼女の人物が内側からにじみ出るような」
加納「100億円ぐらいの彼女の絵の上で素っ裸にして撮りたいよね。絵と一緒に撮りたいな」
増田「芸術ですよね。彼女の存在自体が芸術。日本が誇る世界の芸術」
加納「うん。それこそばあさんでも全然構わないから、おっぱい垂れちゃってしなびて。いいですよね」
増田「それはもう後世の芸術家たちに伝えるべきものです」
加納「任せますよ。ぜひよろしくお願いします」
(第5回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。