「時代とFUCKした男」加納典明(3)常識をどれだけ外れるか、時代をどれだけ裏切るか。それが自分の価値観
写真家・加納典明氏(83)
小説、ノンフィクションの両ジャンルで活躍する作家・増田俊也氏による新連載がスタートしました。各界レジェンドの一代記をディープなロングインタビューによって届ける口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。
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増田「草間さんが『こうしなさい』みたいに?」
加納「そう。『あなたはこっちでこうしなさい』と言ったり『あなたはこっちの人と』などとやって歩き回って、男や女の体に水玉模様を描いていく。でも、彼女はパフォーマーたちがやることをわかっているらしくてそんな出しゃばりじゃなかったです。それで俺、その何日か後に、そのパフォーマーたちにタッド若松*のスタジオへ来てもらって、パフォーマンスのとは違う写真も随分撮って、だから、私としては、あの時代の、やっぱり代表作の一つですね」
※タッド若松:写真家。1936年生まれ。1962年に渡米し、リチャード・アヴェドン、バート・スターンらに師事する。後に妻になる鰐淵晴子をアメリカヒッピー文化を背景に撮影した「イッピー・ガール・イッピー」で一世を風靡し、各国で評価される。
増田「『FUCK』っていう題名がまたすごいですよね」
加納「普通『FUCK』なんてタイトルつけないですよね」
増田「1969年*ですしね」
※1969年:アポロ11号が月面着陸を成功させた熱狂の年。日本では昭和44年。東名高速道路が全面開通するなど、日本のインフラが次々と整備されるなか、学生運動が大きくなり、東大安田講堂事件に警視庁が機動隊を大量投入。日本プロ野球では金田正一が400勝の偉業を達成、競馬界ではスピードシンボリが日本馬で初の凱旋門賞に挑戦した。セイコーが世界初のクオーツ時計を発売。
加納「僕もはじめは少し迷いましたけど、4文字で、シンボリックでいいなと思ったんです」
増田「現在はある程度使われてますけど、当時の日本では知られてない言葉ですよね」
加納「そうなんですよ。『ファックって何?』っていうぐらいで。向こうでは『おまえ、よくこんなタイトルつけてやるな』って言われたぐらいです。でもそういう普通はやらないようなことが僕は好きなんです。並外れたっていうことが、僕は好きなんですよね。当たり前に『お見事』みたいなのって嫌いなんですよ。『はい、よくできました』みたいな言葉じゃなくて、飛ぶってわけじゃないんだけど、違うとこからの価値というんですか、違うとこからのアプローチというか、常識をどれだけ外れるかというところが僕の価値観なんです」
増田「そのときの26歳の典明さんと現在の83歳の典明さんの違いはありますか」