山口建
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山口建静岡県立静岡がんセンター総長

慶応義塾大学医学部卒。国立がんセンター(現・国立がん研究センター)に勤務。内分泌部、細胞増殖因子研究部の部長などを歴任。1999年、同センター研究所の副所長、宮内庁の御用掛を兼務。静岡県立静岡がんセンターの設立に携わり、2002年、初代総長に就任し、現在に至る。著書に「親ががんになったら読む本」(主婦の友社)など。

「高齢者のがん治療」知っておきたい16のポイント 静岡がんセンター山口建総長が解説

公開日: 更新日:

高齢者のがん治療では全人的医療の視点が大切

■現在は元気でも、手術や入院後はどうなるかわからないのでは?

 経験豊富な医師であれば、手術や入院が患者さんにどのような影響を与えるか、ある程度予想できます。しかし、治療が順調にはいかず、患者に大きな負担がかかり、体調を崩してしまうケースもあります。全てが想定内で行われるとは限りません。積極的に治療を行うと決めたら、高齢者だからこそ、徹底的な準備が必要です。

 手術前であれば、持病の管理、禁煙・禁酒、口腔ケア、睡眠薬の調整など。また、治療前後にリハビリなどを積極的に行います。高齢者の手術では合併症が起こりやすいので、医療スタッフは万が一を想定した管理を行い、何か起こった時は速やかに発見し、治療に関わる全ての診療科が力を合わせて、対応します。

■患者側が積極的な治療を望んでいる場合、その医師は尊重される?

 治療方針の決定において、患者さんの意思はまず第一に尊重されなければなりません。後に詳しく述べますが、高齢者の場合、手術を終え帰宅後も家族などの負担が大きいと思います。そこで家族が治療方針を把握することが大切です。

 その上で医療者側が、患者さんや家族に治療に付随する危険性を丁寧に説明し、理解してもらうことが大切。高齢者は副作用や合併症が強く出やすい。手術創の回復も遅く、手術後、肺炎にかかりやすい。手術の危険度を増す病気を患っていることもよくあります。

 つまりは、治療によって逆に余命が短くなったり、残された期間をQOLが低下した状態で過ごさなければならない危険性が高いのです。そこで、高齢者のがん治療では、全人的医療の視点が大切です。

 それでも積極的な治療を希望するという患者さんの強い意思表示があり、「手術に耐えられる状態」「治療によって得る利益が大きい」といった要件を満たしていれば、医師は、さまざまな手法を工夫し、希望に沿えないかを検討します。

がん治療で入院となると、フレイル(虚弱)のリスクも増す?

 高齢者は数日の入院で筋力などが20~30%低下し、立ち居振る舞いに支障を来たしたり、食事が困難になったりすることがあります。また、がん治療後の体の回復は、元気な時よりも遅れます。積極的な手を打たなければフレイルのリスクが増します。

 そのため治療前後のリハビリテーションや口腔ケアなどフレイルを防ぐ処置を積極的に行い、回復を早める手だてを取ります。

 認知機能の低下やせん妄状態もがん治療を契機に起こるリスクがあり、その対策も重要な課題です。

■高齢であることをあまり意識せずに受けられる治療法はある?

 胃がん大腸がん食道がんといった消化管の早期がんに対する内視鏡治療や腹腔鏡下手術、照射可能な部位のがんで完治を目指す放射線治療などです。これらは、従来の方法よりは負担が少なく、高齢者でも治療に耐えることができます。

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